2018年 04月 02日
映画・赤と黒 |
スタンダール小説の面白さは、ヨーロッパ近代の幕開けという、歴史的にも人間の内面的にも、最も微妙な時代を背景としたところにある。その大半はナポレオンの登場と敗戦。この物語はワーテルローにおける敗戦から7月革命までの間、旧態の上流社会の中で生きようとする樵の息子ジュリアン・ソレルの挌闘を描いている。フランス革命から40年余り、ヨーロッパの近代がようやっとカタチを見せ始めるこの時期、スタンダールは最初の近代人をどのようにイメージしたのだろうか。
オペラや演劇の中では、最初の近代人はやはりモーツアルトのドン・ジョヴァンニかもしれない、いやゲーテのファーストという人もいる。しかし、この物語は虚構ではない、田舎町ヴェリエールと大都市パリを舞台とするリアルな人間が持つ恋愛心理を描いている。才気もあり美貌のジュリアン・ソレルが故郷を離れ大都市で名を上げるという、現代であればすべての若者が夢見る立身出世という現実世界の小説だ。
ヨーロッパが生み出しつつある近代人カタチ、それはどんな姿か。中世社会では人間は、祈る人、戦う人、働く人の三つのカタチを持っていた。赤は戦う人であり、黒は祈る人、しかし、人間のカタチは働くことから始まっている。近代人は赤でもなく黒でもない、スタンダールが描いた近代人のカタチ、それを読み取るのは映画を見ている我々自身だ。
by leporello1
| 2018-04-02 17:55
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