2012年 09月 06日
火口のふたり 白石一文 |
いや、恐ろしいのではない、悲しいのだ。悲しいのは作者ではない、主人公の賢だ。災害に直面し、進路も失い、母港に寄港したような40代の賢。寄港地であるから安らぎはあるが、そこは人間的にも景観的にも、今の日本、どこもそうなってしまったフラットな死の町。救われるのは原発汚染に影響されていない場所であったこと、そこには幼なじみの直子がいた。
性と精神がテーマなら恋愛小説、性には生殖と快楽または欲望があり、前者は自然、後者は精神。快楽だけを問題にし、結果が不問なら、それは精神的だがポルノグラフィー。(川本三郎、吉行淳之介の「暗室」の解説からの意訳)しかし、道徳や規範への小心的な対応だけでは新しい恋愛も詩も夢も生まれることはない。小説はタブーを越えどんな精神を生み出したか。この小説には自然があり精神があり恋愛がある。しかし、この小説はどこまでも悲しい。
by leporello1
| 2012-09-06 18:37
| book
|
Comments(0)