2018年 01月 12日
ドイツの小さな町 ジョン・ル・カレ |
あとがきで訳者は「この小説は寝ころんでなんか読んではいられない。机のそばでメモをとりながら読まざるをえない。」と書いている。
この物語はル・カレのいつにも増して重厚緻密、微妙で些末な部分が後々に重要な展開に関わる、確かに油断ならないとてつもない代物だ。
だからこそもはや半世紀、ル・カレはいまだに離せない、このスパイ小説は彼の真骨頂と言えるようだ。
新春という長大な自由時間だから許される、ページをめくり後戻りを繰り返す貴重な読書体験。
「エブリシングであると同時にナッシング」
「暮らし向きが豊かになると、もっと大切なものがほしくなる。イリュージュンさ幻想だよ」。
「戦争を始めたことではなく、戦争に負けた親たちを非難する若者たちは、東西統一もないのに欧州統合への参加はまだ時期早尚として反英デモを繰り返す。」
人生の半分を、事実を見ずにすますことを学び、あとの半分を感じなくてすますことで費やしてきた、作中の老獪な官僚の皮肉で不誠実な言葉だ。
まだ東西ドイツは統一されておらず、首都はベルリンではなく「ドイツの小さな町」ボンであった頃の、英国大使館が舞台。
現地雇いのユダヤ系英国人、臨時職員であるリオ・ハーティングが大使館から失踪する。
英国外務省の公安部員であるアラン・ターナーがロンドンからボンに派遣される。
彼が追うのは「人間」なのか「書類」なのか。
ル・カレのテーマは「人間」という「非人間」と言って間違いない。
by leporello1
| 2018-01-12 16:37
| book
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